2007年10月21日日曜日

宇宙が膨張していることの意味

天文学者の杉本大一郎先生の講演録を読みました。長年の疑問が、一つ解けました。

物理の統計力学にはエントロビー増大の法則というものがあって、あらゆるものは放っておくといずれとことん乱雑な状態になってしまいます。コーヒーの中にクリームを入れれば、始めはクリームの部分とコーヒーの部分があっても、いずれ全体に混ざってしまう。この法則に従うなら、宇宙もいずれ均一の状態にならなければなりません。宇宙のエントロビーも増大しているなら、コーヒーと同じように宇宙も、銀河とか、星とかの、物質がある部分と、物質がない宇宙空間とが入り混じって均一になるはずなのです。

だけど、実際には銀河ができ、星ができている。地球上の物質は宇宙中にばらまかれて散らばるということはなく、まとまっている、という、エントロピーの小さな状態で安定しています。それは、宇宙が膨張しているということによって可能になっているらしい。宇宙が膨張しているために、増大するエントロピーが到達すべき最大値が、増大しているのです。到達すべき全体の最大値が増大しているから、部分のエントロビーが増大しなくても全体は増大するということが、可能になっているらしい。どうやらそれが、構造を生成する非平衡統計力学が重要だということの意味だったらしい。学生の頃、統計力学や非平衡統計力学の話をしていた学友達は、みんなそんな事は知っていたのかな。もちろん、先生は知っていらしたんだろうなぁ。

もう、ず~っと本棚に置きっぱなしの非平衡統計力学の教科書を、もういよいよ捨てようかとしていたのですが。取っておいても今更、やっぱり勉強はしないだろうけれど。

宇宙の統計力学として、チャントラセカールという人がブラウン運動の論文を書いています。学部学生にも読める、チャーミングな論文です。宇宙の中で星達が万有引力で相互作用しながらブラウン運動している、というイメージは、楽しかったけれど、実際の宇宙との関連は今ひとつリアルに感じられませんでした。あの先には非平衡統計力学が必要だったわけです。    ひょっとして、チャンドラセカールも最後の方とかで、それが書いてあったのかも。私に理解できなかっただけかも。

あれは、星も宇宙規模で見ればブラウン運動として考えられる、って、先生は仰ったけど、むしろビッグバーンの最初の方のまだ物質が高温のガス状の頃の事だったのじゃないかしらん。「後の方は、チャンドラセカールはどうせ天文学者で統計力学は専門外だから読まなくていい」なんて、言われて。ま、当時読んでもどうせ理解できなかっただろうけど。

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